滅びゆくもの

通勤のため毎日歩く道沿いに古い古い家屋があった。

壁は崩れ、割れた窓はセロテープでつぎはぎされている。

ボロボロ、ガタガタ

割れ目からのぞく室内は明らかにゴミ屋敷の様相を呈している。

そこには、赤茶けた顔の痩せたおじさんが住んでいた。

おじさんがどのように生計を立てていたかは知る由もないが、たくさんの植木鉢を家の前の日の当たる歩道に出したり入れたり、細やかに面倒を見ていて、植物好きであることはうかがい知れた。

その植木鉢の植物がいつからか出しっぱなしになり、そして枯れ始めた。

おじさん、入院でもしているのかなぁ…と思っていた。

 

割れ窓から放り込まれる郵便物やチラシも吹き込む風にあおられ、室内はますます荒れているようだった。

植木が枯れ始めてから半年ほどは経ったと思う。ある日、家の前の歩道を囲うように柵が作られ「この植栽は道路を占有しています。○月〇日までに処分してください」と、誰に宛てたのでもないような掲示が。。

 

そしてとうとう。

誰が決断したのか知らないけれど、植栽だけでなく、家の処分も始まったようだ。

あと何日もかからずにあの家は壊され更地になるのだろう。

 

google mapのストリートビューで過去の画像を見ることができるが、かつてはあの家に洗濯物がはためいていた日もあったのだなぁとしみじみと思う。

 

f:id:sora101064:20210329221025j:plain